「世界」12月号に「トービン税」登場!しかし・・・

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似たようなタイトルがつけられ、同じようなテーマを扱い、そして並んで掲載されながら、これほど対照的な二つの論文があるだろうか。雑誌「世界」12月号に掲載された橋本努・北海道大学経済学部准教授の「世界政府の作り方――世界を救う二つの方法」と、ナオミ・クラインの「もうひとつの可能な世界――弾圧から蘇る希望」である。

(この論考は一会員の見解です)
書店でパラパラと「世界」をめくっていたら、「トービン税」という文字が飛び込んできた。普段はあまり購入はしないのだが、「トービン税」が載っているのなら話は別だ。だがどうも様子がおかしい。のっけから「ホワイトバンド」だの「世界政府」だのと、すこし購入するのをためらう文字列が並ぶ。とはいえ、さまざまな回路から「トービン税」にたどり着き、そしてその実現に向けてともに考えていくことは、とても大切なことだ、と思い購入する。

ちなみにattacが「トービン税」(最近では「通貨取引税」と呼んでいる)を提起する第一の理由は、投機的なマネーをふくむ通貨取引に対して課税をかけて、金儲けのためだけに行われている通貨取引を縮小することで、投機マネーとは全く関係のない人々の生活が破壊される通貨危機を回避したいからだ(ここにattacの主張する通過取引税のわかりやすい説明があるので参考までに紹介しておきます)。

橋本氏の目的は少し違う。橋本氏は「世界を救うためのビジョン(構想)をもつ必要がある」として、そのために「まず、世界レベルの貨幣を共有しなければ、世界民主主義を創造することができないであろう」と述べて、世界貨幣の創出の「シナリオの道筋は、まず『トービン税』を導入することから始まる」と提起する。

とはいえ、そこで言われている「トービン税」の中身は、これまでattacなどが提起してきた通貨取引税とそう大差はない。ただ税収を課税国の財政収入にしてしまう、というところは若干の異論はあるのだが、その後の主張に比べれば、この程度の差異はかわいいものかもしれない。

その後の第二段階(世界政府の具体的検討に至るまでに全部で5段階あり、「トービン税」導入はその第一段階に過ぎない)から急速に、attacやオルタ・グローバリゼーションが提起する通貨取引税や一連の構想とは違う方向へ進んでいく。

橋本氏が提起している第二段階では、「税率を引き上げるとともに、徴収したトービン税の一部を、IMFや世界銀行といった、既存の国際機関に配分する政策を検討すべき」だというのだ。

10月14日から21日にかけて、IMFや世界銀行などの国際金融機関の横暴に対して「ええかげんにせぇ!」と南の北の社会運動が世界各地で抗議行動をおこなったばかりである。そのIMFや世界銀行に対して、トービン税の税収の一部ではあれ、配分すべきなどとは、決して主張することはできない(よね?)。

橋本氏は第二段階で引き上げられたトービン税の税率によって「徴収された追加的な税金はすべて、IMFにおける『最後の貸し手』機能(グローバルな金融不安に対処するための財源)として用いられることが望ましい」として、「おそらくここまでのシナリオは、多くの国の合意を得ることができるのではないか」と述べる。

1982年、メキシコの債務返済モラトリアムを契機に世界を襲った「グローバルな金融不安」の責任はIMFにある。97年アジア通貨危機をいっそう深刻にさせ「グローバルな金融不安」を拡大させたIMFである。IMFや世銀はG8諸国をはじめ、金貸し国によって決定権が握られている。いまサブプライムローン問題で世界中に「グローバルな金融不安」を撒き散らしているのは、他でもないIMFと世銀の親玉の一人であるアメリカ自身である。グローバルな金融不安を撒き散らしてきたIMFや世銀にトービン税の税収をくれてやる理由はない。

では、集めた税収をどうするのかについては、今年5月、Attacの全国ネットワークがフィンランドから招いたパトマキさんたちのグループ(NIGD)が提起している「国際通貨取引税条約草案」が、これまでのなかではかなりまとまった、そして極めて民主的な提起をしていると思われる。参考までにご一読いただけるとありがたい。

さて、橋本氏は第三段階、第四段階と進んでいく。第三段階では、さらにトービン税の税率を上げ、それによって得られた税収をもとに、「トービン税機関」の設立を構想する。これは上記の「国際通貨取引税条約草案」のなかで提起されている「通貨取引税機構」とは、残念ながら似て非なるものになるだろう。

というのも、橋本氏はトービン税によって徴収される膨大な税収をあげて「これだけの財源があれば、私たちはその用途をめぐって、世界規模で民主的に議論するインセンティブをもつだろう」と、大金を前にすれば民主主義が働くと考えている節があるからだ。この考え方は、第五段階で提起されている「私たちは世界的な貨幣を共有することによって、はじめて国際公共財の必要性を認知するのであって、そしてまた、その必要性に導かれて『下からのグローバル民主主義』を展望することができるであろう」という結論とつながっている。このようなロジックからは、何か巨大な資金や、必要性がなければ人々は民主主義に見向きもしない、というふうに考えているのではないかと思えて仕方がない。

国際通貨取引税条約草案では、通貨取引税の導入の当初から、通貨取引税機構という、民主的に構成される国際機構によって通貨取引税が条約加盟国によって実施されていく。どのように民主的にか、ということはどう草案を読んでもらいたいが、それが実際に実現できるかどうかは、後述するナオミ・クラインの言うように「正義を行えば利益を失うけれど、正義を行わなければもっと大きな損失を被る。天秤にかけるように、そう判断したときにだけ、エリートは正義を選択します」というように、政治と経済を握っているエリートに「そう判断」させる社会運動いかんにかかっている。

橋本氏の世界政府の出現を展望するトービン税構想は、貨幣発行の自由化を唱える第四段階、信販会社が発行する世界的通貨を含む「世界的な貨幣の自生的な生成に基づく世界世府の実現」の第五段階まで述べられている。そこには、新しくもなく自由でもないのになぜか「新自由主義」とよばれるむき出しの資本主義政策を拒否し、「生活の基盤を保証された何百万もの人びとが、人間としての尊厳を持って生きてゆくことができ」「富める人々の利益を制限する」もうひとつの世界の実現に向けて「情熱を炎と燃やす」(前述ナオミ・クライン論文より)オルタ・グローバリゼーションの影はみうけられない。

もちろん、トービン税の構想は、いろいろあっていい。トービン税はattacの専売特許ではないし、トービン自身もattacの提起する「トービン税」には完全には同意してはいなかった。橋本氏も、詳論の最後に「読者はこのような政策の構想に対して、にわかには納得しがたいかもしれない。しかし私たちは、『より善き世界』を求めて、かつて三木清が論じたような『構想力の論理』をたくましく構築していくべきではないか」と述べているように、さまざまな理論や主張を「たくましく構築」していくことは必要だろう。

それにしても、である。なぜ「世界」編集部は、「トービン税」に対して、もう少しバランスの取れた扱いをしなかったのだろうか。というのも、橋本氏の論文のかなりの紙幅を「トービン税」が割いているが、橋本氏の提起している「トービン税」は、いろいろと論争のあるトービン税をめぐる主張のなかでも、かなり特異な主張の一つではないかと思うからだ。「世界」の読者の多くが「トービン税」の何がしかは聞いたことがあるのかも知れない。それにしても、せめて編集部の解説なりで、「国際通貨取引税条約草案」とまではいわないにしても、いわゆる一般的なトービン税の解説はあってもよかったのではないか。これによって「トービン税」の主張が誤解されてしまっては、Attacがいうのもなんだが、トービン博士が浮かばれないだろう。

さて、前置きが長くなりすぎた。だが、橋本氏の論文のすぐ後ろに掲載されているナオミ・クラインの講演録「もうひとつの可能な世界――弾圧から蘇る希望」を、まさに「情熱を炎と燃やす」がごとく読み終えた際の湧き上がる共感と感動を理解してもらうためにも、この前置きは必要だったように思う。それほど、ナオミ・クラインの講演録はすばらしいものだ。

「歴史の終わり」といわれていた90年代から続いた新自由主義イデオロギーが席巻してきた今日の世界のなかで、世界社会フォーラムがいかにわれわれの歴史と希望の扉を切り開いたのかを情熱的に語ったものだ。「裏切られた夢や奪われた世界を、近代史の塵屑の中から一つひとつ拾い上げるようにして、調査を続けた」ナオミ・クラインは、1973年チリ、1989年ポーランド、1989年天安門、1994年南アフリカを振り返る。

「市場経済とは別の選択はいつでもあった。そう知ることは大切です。私たち自身の歴史を語り直して、その歴史の意味を悟らなければなりません。私たちが物語る歴史には、打ちひしがれ、夢を失い、命さえ奪われた私たち自身の姿がある。それでも私たちは語り続けなければならない。なぜなら、歴史に終わりなどないからです。」(同誌139頁)

すこし長くなりすぎたので、つづきはまた日を改めて。まだナオミ・クラインの講演録を読んでいない方は、いますぐに書店か図書館で読むことをお勧めする。「私たちの心に大切な灯をともし、消えかけていた情熱を炎と燃やす」ために!

(たぶんつづく)

参考 『世界』2007年12月号(岩波書店)
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