
またまたジュビQがやってくれました。エクアドルの債務に関する詳細なレポート『岐路に立つエクアドル~公的債務の総合的監査のために』が翻訳・掲載されたのです(とりあえず半分)。
エクアドルといえば、二〇〇六年十一月の選挙で大統領に選出されたラファエル・コレア大統領の左派政権が、新自由主義をすすめるアメリカとの自由貿易協定FTAAの調印を拒否し、国内にある米軍基地の使用延長を拒否し、世銀やIMFにかわる「南の銀行」の設立に関与し、世銀の代表を国外追放にするなど、少数与党かつメディアが巨大資本に握られているという厳しい状況の中で、一連の進歩的改革に取り組んでいることでも知られています。
なかでも多国籍金融機関と各国の民間金融機関、政府機関などが、エクアドル民衆の生活レベル向上とはなんの関係もない多額の融資を押し付け、その結果として巨額の借金を抱えてきた問題について、債務問題を扱った傑作『世界の貧困をなくす50の質問』の著者の一人であるエリック・トゥーサンを顧問の一人として迎えた「公的債務の統合的監査委員会」の活動は、すべてのオルターグローバリゼーション運動が注目するに値するものです。
今回ジュビQのサイトに掲載されたエクアドル債務に関するレポートは、上記委員会に参加しているエリック・トゥーサンが所属する第三世界債務廃絶ネットワーク(CADTM)の専門チームによるものです。翻訳はご存知、大倉純子さん。
詳しくは同レポートをぜひ読んでもらいたいですが、『50の質問』(初版)で分かっているつもりでしたが、まあひどいものです。
第一章では、「1980年には予算の40%が保健医療と教育に回され、15%が債務返済に充てられていた。2005年にはこの比は逆転し、政府は予算の40%を債務返済に回す傍ら、保健医療と教育にはたったの15%しか予算を使えなかった」エクアドルに誕生したラファエル・コレア政権の概観、「汚い債務」とよばれる不当極まりない債務の定義と歴史、エクアドル債務増大の分かりやすい経過が述べられています。
第一章の最後には次のように述べられています。
「全体として、エクアドルはすでに借りた金の何倍も支払っており、北に国に対しては実質的に「債権者」である。実際、南の国々は多大な社会的・生態系上の”資金援助”を北に対して行っており、実は北は南に対して賠償金を支払うべき義務を背負っているのである。」
のちに第三章ででてきますが、日本はエクアドルに対する第三の債権者といわれていますが、実は私たちのほうがエクアドルに賠償金を支払う義務を持っているのです。
第二章では、「全ての途上国同様、エクアドルの対外債務はこの数十年間で爆発的に増え、1970年の2億4100万ドルから2006年6月には169億ドル9500万ドルとなった。1970年には36ドルだった国民一人当たりの債務は、2005年にはなんと1460ドルだった。どうしてこのようなことが起こったのか」という仰天するような債務額の実態から始まり、よりくわしい債務増加の経過が語られています。
ボリビアでもチリでも同じように、債務の歴史は、軍事独裁政権時代からスタートし、民政移管した後もその経済政策は変わらず、逆にアメリカの金利引き上げやIMF・世銀の構造調整政策などで雪達ダルマ債務が増えていきます。そして政権の中心にいるエリートが多国籍資本とともに、これらの融資から莫大な利益を得ていることも同じです。
第二章はとりわけ詳細にエクアドルにおける債務がどのように拡大していったのかを、スクレディゼーション、ブレイディ・プラン、グローバル・ボンドなどの具体的な政策を解説することで明らかにしてます。民間の債務を国に肩代わりさせることで債務が拡大する様が述べられています。そして為替相場の信じられない下落によってドル化=国として財政政策が取れなくなってしまったことにも触れられています。
鉱業、農業、土地政策や灌漑プロジェクトに対する国際的な融資がどれだけでたらめで、金持ちと地主を儲けさせ、中小農民や先住民の人々を追いやってきたか、というケースについても述べられています。
IMFの「グッドガバナンス」政策を批判し、IMFの進める構造調整プログラムでは、確実に債務を返済させるために輸出を奨励しますが、その輸出拡大のために行われる通貨切り下げが、IMF自身の目的であるところの為替の安定と相反することにも触れられています。
第三章では、エクアドル債務の具体的なデータと債権者の分析です。
「1976年と2006年の間に、エクアドルの間にたまった債務額は299億7650万ドル」ですが、「エクアドルがすでに元利合計で353億2120万ドル返済していることがわかる。しかるに2007年4月、エクアドルはいまだに103億4100万ドルという巨額の公的対外債務残高を抱えている」という事実が述べられています。
これまでみてきたように、債務の一本化や付け替え、恐ろしい取立て、元金を上回る額をすでに返しているのに借金は永遠に無くならないなど、もうどこかの国のサラ金・多重債務問題と同じです。というか、サラ金がまねしてんだよな、銀行や多国間金融機関のやりかたを。
借りまくったカネをさらに借金に当てていることも同じです。
「1989年から2006年の間に借りた資金のわずか14%しか政府プロジェクトに使われなかったことが見て取れる(飲料水供給、エネルギー、灌漑、運輸、通信、社会インフラ、企業への財政支援など)。残りの86%は対外債務の元利返済に使われたのだ。よりつぶさに検証すると、ただでさえ少ない14%のうち、34%は開発プロジェクトに投入されず『金融セクター改革』に回されている。」
教育、都市開発、衛生、健康、農村開発などの社会的インフラへは借りた総額のわずか2.1%しか使われていない。こんなおかしな融資に対する取立ては不道徳を超えて違法です。
日本がエクアドルに対して持っている二国間債務は3億3840万ドル、これはスペイン(4億200万ドル)、イタリア(3億5940万ドル)についで三番目です。(なぜか第四位はブラジル3億1680万ドル)
第三章の冒頭では、債務と何かについて次のように述べています。
「債務返済は、南から北への富の移転の、最もはっきり目に見える一部に過ぎない。本国のお膳立てで、多国籍企業がエクアドルのためという顔でやってくるが、実際はエクアドルは全ての真の主権を放棄させられ、天然資源は過剰に搾取される。そして多国籍企業はエクアドルの国民に不利益を及ぼしながら莫大な利益を上げる。」
富が運ばれてくるこの日本での取り組み、とりあえずは問題提起が大切ですね。何ができるのか・・・。
このレポートを(いまのところは半分)翻訳された大倉さんはによると、
「ジュビリー九州とATTACJAPANは、12月11日〜17日、エクアドルの債務政策と「南の銀行」設立に関して、コレア政権の国際アドバイザーを務めているCADTM代表エリック・トゥーサン氏を招いて講演会を計画しています。エクアドルからもゲスト招聘を予定!」
とのこと! これはなんとしてもなんとかせねば(?)
+ + + + +
債務帳消しでエクアドルが抱える貧困や諸問題がすべて解決することはありませんが、それは希望へのスタートになります。きわめて不安定な情勢の中で進歩的改革を進めるコレア政権がどうなるのか、それは私たちにとっても無縁ではないでしょう。同レポートの第一章では次のように述べています。
「エクアドルは変容の過程に入っている。どういう結末になるか誰にも予想はできない。目標を達成するためにはコレアは幅広い民衆の支持を得る必要がある。右翼政党や国内の少数特権階級が、なんとしても自分たちの利権を手放すまいと不安定化工作を活発化させているからだ。そして国際金融機関や米国政府はこの反政府の動きを強力に支持している。それに屈するわけにはいかない。前もって保障されているものなど何もない。ラファエル・コレアとその政府は、他の多くの政府同様、二の足を踏むようになり、大胆さを失うかもしれない。決定的要素となるのは、自らが変革の直接の主体たろうとする民衆の力だろう。世界の社会運動・市民運動の支援もまた、成功のカギとなるだろう。」(第一章、B項)
中南米で広まる民衆のたたかいに押し上げられた左派政権が勝利に向けて発展するのか、それとも新自由主義の荒波に飲み込まれてしまうのか、その影響は、地球の裏側の私たちにとっても他人事ではありません。新自由主義を押し返し、もうひとつの希望ある世界へ向けた社会改革は、「自らが変革の直接の主体たろうとする民衆の力」と「世界の社会運動・市民運動の支援」如何にかかっているのです。
「カネなら払わん!」のエクアドル民衆の声を日本でさらに拡大しよう。

左からチャベス・ベネズエラ大統領、コレア・エクアドル大統領、モラレス・ボリビア大統領
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